著作権侵害や引用について

法律

著作権侵害について、はじめに

前回の「著作権について はじめに」の記事では、著作権の趣旨や概要・保護範囲などについて説明しました。
今回の記事では、特にアートやデザインの現場における

「著作権侵害とはどういうことなのか?」
「侵害するとどうなってしまうのか?」

について、簡単にお伝えできればと思います。
またその中で、アーティストのみなさんが気になるであろう、「引用」や「私的使用」について
つまり

「著作権侵害とみなされず、自由に他の人の著作物を使える場面ってどんな場面?」

ということにも触れていきたいと思います。

「著作権侵害」を理解するためのポイント

まず、「著作権侵害」を理解・回避するための重要ポイントは、以下のとおりです。

  1. デッドコピー(※デザインや形態などの創作物をそっくりそのまま模倣すること)でなくとも、法的に「著作権侵害」とされることがある
  2. 著作権侵害の結果、刑事事件・民事事件になってしまうこともある
  3. 許諾なしで他者の著作物を利用できる場面もあるが、成立するための条件が複数ある

それでは、これらの意識をもとに、「著作権」に関する用語の定義について、もう少し詳しくみていきましょう。

「著作権侵害」の定義と概要

「著作権侵害」の基本

基本的に、著作者に無断で著作物を利用することはすべて、「著作権侵害」にあたる可能性があります。
もちろん、対象は「著作権の認められる著作物」であることが必要です。
(※前回の記事で述べたように、例えば著作権の保護期間が切れている作品などは、著作者に無断で利用したとしても「著作権侵害」とはみなされません。)

複製や翻案による著作権侵害について

著作権侵害によるトラブルで多いのがこの「複製」・「翻案」と、その解釈をめぐるものです。

著作権について はじめに」での紹介のとおり

複製:印刷や写真撮影、録音、模写、録画等により複製すること
翻案:既存の著作物を、翻訳、編曲、脚色、映画化、漫画化、小説化する等して、二次的著作物を作ること
と定義されており、この二つを行う権利は本来、著作者のみが有しています。

では、例えば、先行作品とそれによく似た後発作品が存在し、先行作品の作者(仮にAさんとします)が後発作品の作者(仮にBさんとします)の責任を追及したい、と考えたとします。

この時、法律ではどのようにこれらの作品が「複製や翻案にあたるのか」、つまり「著作権侵害をしているのかどうか」を判断するのでしょうか?

「複製」と「翻案」に関する判例と解釈

江差追分事件
と、
ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー事件

という、著作権における重要な二つの事件があります。
(※詳細に興味がある人は是非リンク先の記事を読んでみてください。)

これらの事件の判例の中で
「どんなときに複製したといえるのか?」
「どんな時に翻案したといえるのか?」
という、法的な解釈が示されています。

「言語の著作物の翻案(著作権法27条)とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう」

(平成13年 6月28日最高裁第一小法廷判決:ブダペスト悲歌事件)

「著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいうと解すべきである」

(昭和53年 9月 7日最高裁第一小法廷判決:ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー事件)

…難しい書き方ですが、これらの判決を併せ、簡単に要約するとつまり

  1. 依拠性があるか?(他人の著作物の内容を知って、その他人の著作物の内容に基づいて著作物を作出しているかどうか)
  2. 同一性(類似性)があるか?(作品を見る人が、元になる作品等を思い浮かべるかどうか)

が、「複製を行ったか」「翻案を行ったか」の法的な判断基準となる、ということです。
この二条件が満たされていると、法的には「先行作品の著作権を、後発作品の作者が侵害している」と見なされてしまいます。

先ほどのAさんとBさんの例でいうと、

「BさんがAさんの作品画像を壁に貼り、参考にしながら制作している様子の写真や動画が残っていた」(→依拠性がある、と判断されやすい材料)

「Bさんの展示に訪れた多くの人が、Aさん作品の特徴的な部分との類似に気づき、そのことについて言及する複数の批評家の記事が出た。また、類似を指摘するSNSでの沢山の投稿などがあった」(→同一性・類似性がある、と判断されやすい材料)

といった感じであれば、Bさんにとってはとても不利な裁判になるであろうと言えます。

著作権侵害の法的リスク

著作権侵害をしてしまうと、民事事件あるいは刑事事件、ひどい時にはその両方のトラブルへ発展してしまう場合があります

民事訴訟は、人と人、会社と人などの私人の間の紛争を解決するための手続です。刑事訴訟は、起訴された被告人が犯罪行為を行ったのかどうか、刑罰を科すべきかどうか等について、判断するための手続です。

法テラス 民事事件と刑事事件の違いについて

著作権侵害の民事的リスク

まず、著作権侵害が民事事件に発展した場合には、元の作品の著作者から、次のような請求を受ける可能性があります。

  1. 侵害行為の差止請求(例:展示物の展示を中止しないといけない)
  2. 損害賠償の請求(例:展覧会の収益と同じ金額を支払わないといけない)
  3. 名誉回復などの措置の請求(例:HP上などで公式に謝罪しないといけない)

このように、著作権侵害をしてしまうと、せっかくの作品をお蔵入りにせざるをなかったり、多額の金銭を支払う義務を負う場合があります。

著作権侵害の刑事的リスク

次に、刑事事件についてですが、著作権法では
「親告罪」となる行為と、「非親告罪」となる行為があります。

そもそも親告罪(非親告罪)って何?

「親告罪」とは、告訴(被害者やその法定代理人などが、捜査機関に対し、犯罪事実を申告して訴追を求めること)がなければ、起訴( 検察官がその疑いについて裁判所に対して審理を求めること)することができない犯罪のことです。

「親告罪」に該当するのは主に、著作権や出版権、著作者人格権などに対する侵害の場面です。
「これらの権利は、著作者個人の権利であり、刑事責任を追及するかどうかは著作者自身が判断するのが妥当である」という考え方が背景にあります。

一方、「非親告罪」に該当する例としては、「著作者以外のものの実名を、著作者名として記載した作品の複製物を配る」等があります。
この場合、著作者等からの告訴なしに、検察官から起訴されるおそれがあります。

刑事事件になった場合、著作権法上の罰則は、以下のとおりです。

  • 著作権、出版権または著作隣接権を侵害した場合:最大で10年の懲役・最大で1000万円の罰金のいずれか、または両方の責任を負うおそれがあります。
  • 著作者人格権または実演家人格権を侵害した場合:最大で5年の懲役又は最大500万円の罰金の責任を負うおそれがあります。

どちらも、個人や小さな法人が負うには重い罰則です。

「…じゃあ、他者の著作物を無断で使用するとして、著作者にバレず、バレたとしても訴えられたりしなければいいのでは?」と考える人もいるかもしれません。
しかし、このインターネット社会では、「著作物の無断利用や無断改変を完全に隠し通す」ことはかなり難しいといえるでしょう。
バレてSNSで炎上したり、著作者から訴えられるなどすると、これまでの創作者としてのキャリアを台無しにしてしまう可能性も高いです。

そのため、他者の著作物を利用する場合には、著作権者と書面等を交わし、利用の許諾を得ておく等のディフェンスをとることを、法律家として強くおすすめします。
特に、大きな展示や対価の発生する作品制作・売買など、展示差し止めや訴訟リスクを絶対に避けたい場面では、よくよく注意してください。

著作者の許諾なしで、他者の著作物を利用できる条件とは?

さてここまで、「無断で他者の著作物を使用することは基本的に著作権侵害となる」ことや、そのリスクについてお話をしてきました。

しかし、徹底的にすべてを「著作権侵害」として禁止してしまうと、文化や学問・研究や社会の発展を阻害してしまう要因にもなりかねません。

このため、「文化の発展」を大きな趣旨のひとつとする著作権法では、一部例外として、「著作者の許諾なしで他者の著作物を利用できる条件」が定められています。
著作者の許諾なしで他者の著作物を利用するための条件は様々ありますが、大きくは以下のようなジャンルに分けられます。

  • 私的使用のための複製
    自分や家庭のためだけなどの、限られた場所で利用するときには、著作者以外の人も著作物を複製できます。
    例:好きなドラマを、自宅で見るためだけに録画する
  • 図書館等での複製
    公立図書館のように法令等で定められた図書館は、利用者から「研究・調査の目的のために複製したい」と希望があったとき、図書館にある書籍や資料を複製することができます。
    例:図書館で料金を払って、司書さんに本をコピーしてもらい、持ち帰る
  • 自分の著作物の中で、他者の著作物を一部「引用」する
    法的に正当な引用とみなされる為にはいくつかの条件が複合的に判断されます。これについては、後ほど詳述します。
    例:論文の中で、別の研究者の論文を引用する
  • 営利目的でなく・無料で著作物を上演・演奏等を行うとき
  1. 営利を目的せず
  2. 入場料が無料であり
  3. 出演者に金銭など報酬が支払われない場合
    には、著作物を「演奏」「上演」「上映」「口述」することができます。
    例:児童館などで、ボランティアスタッフが無料の「絵本の読み聞かせ会」を開催する

他にも、「教育機関における複製等」など複数の条件がありますので、是非以下のサイトも参考になさってみてください。
著作物が自由に使える場合 | 文化庁

これらの条件の中でも、特にアーティストやクリエイターの皆さんの気になるところとしては

  • 私的使用
  • 引用

あたりかと思います。ここからは、この二つについて、さらにもう少し詳しく説明していきます。

私的使用について

「私的使用」とは?

著作物の複製(コピー)は本来、「著作者のみに許された権利」です。
しかし、「私的使用」の範疇に限り、他の人も著作者の許諾なしに複製することができる、ということになっています。

例えば、

  • 自分のスクラップブックに貼るために、雑誌や本をコピーする
  • 家族であとから見返すために、テレビ番組を録画する
  • 自分の制作の参考にするために、Youtubeなどから(※違法アップロードではない)動画を自分のPCに保存する

といった行為は「私的使用」にあたります。
これらの個人的な行為は、著作権者の利益へのリスクや負の影響が少ない、と考えられているためです。

「私的使用」が成立する条件

こういった複製行為を「私的使用」とみなすためには

  • 営利や販売目的ではないこと
  • 家庭や個人といった、限られた狭い範囲で利用する目的であること
  • 使用者自身が複製すること

といった条件に注意しておく必要があります(※この他にも細かな条件はありますが、ここでは割愛します)。なので逆に言うと、例えば

  • テレビ番組を録画した映像
  • YoutubeからDLした音声
  • 一般に販売されている雑誌をコピーしたもの

などを無加工で、第三者が訪れたり入場料等が発生する展示に用いると、「私的使用」の範囲から外れてしまいます。たとえ来場者が少なくても、です。
こういった状況ですと、著作者から損害賠償や謝罪等を要求される可能性があります。

サンプリングやコピー・コラージュなどの技法による作品を扱う際には、十分気をつけて、だいじょうぶな制作・展示を実施してください。

引用について

「引用」とは?

公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。

著作権法第32条

著作権法では、他人の著作物の「引用」は、「公正な慣行に合致し、かつ、報道、批評、研究その他引用の目的上正当な範囲内で行われる」という条件でならば可能、とされています。
また、こうした「引用」の場合、他言語への翻訳を介した利用も可能とされています。

「公正な慣行」「引用の目的上正当な範囲内」の実際的なラインや分量等の詳細は、次の項目で説明します。

「引用」ってどこまで許されるの?

さて、先程の項目で触れた
「公正な慣行」「引用の目的上正当な範囲内」についてですが、実はとても困ったことに
「引用は本文の何割まで」といった明確な基準が、法で定められている訳ではありません。

したがって、「引用」としての、自作への他者著作物の利用は

  • 分量的に主従が明確であるこ
  • 引用部が他とはっきり区別されていること
  • 引用する必要性があること
  • 出典が明記されていること
  • 改変しないこと

これらの要素をもとに「法的に適切な引用か否か」、総合的に判断されることとなります。
ですので、

  • 「自分の展示で、宮沢賢治の詩を使いたい」
  • 「自分の演劇の中で、ヴァージニアウルフのテキストを朗読したい」
  • 「自分の映像作品で、友人がつくった曲を使いたい」

といった展示や制作におけるアイディアは、使いたい作品が著作権保護期間が切れているものでない限り、基本的に「許諾を取る」or「私的使用や引用の範囲におさまるよう、十分配慮する」といった対応が必要になります。

もし、「自分のアイディアにおける他者の著作物の扱いが「適切な引用」にあたるか?」が不安であれば、次にあげた要点とチェックポイント及び対策を、信頼できる第三者などを交えながら、互いに確認・強化できるといいでしょう。

  • 分量的に主従が明確であること自分の創作部分がメインであり、引用がサブの要素である、ということが鑑賞者や受け手へ明確に伝わるか?
  • 引用部が他とはっきり区別されていること「〜によると…」といった文言や宣言により、鑑賞者や受け手に対して引用だと明示されているか?あわせて、創作部と引用部が、余白や罫線や字体等の、目に見える形でしっかり区別されているか?
  • 引用する必要性があること→引用する必要性や文脈が明確に存在しており、それが鑑賞者や受け手に伝わるか?
  • 出典が明記されていること引用元をきちんと明記しているか?鑑賞者や受け手に引用部を、自分が書いた・考えた・創作したものだと勘違いされないように十分配慮できているか?
  • 改変しないこと→引用元の著作物の意図や創作性を尊重し、勝手に改変を加えていないか?

著作者の許諾なしで、他者の著作物を利用できる条件 補足

少し例外的なものですが、美術に関することですと、以下のような場合にも他者の著作物を自由に利用できる場面があります。特にコレクター・キュレーター・展示企画者の方などは、この部分も抑えておけるといいかと思います。

  • 美術の著作物等の原作品の所有者による展示(著作権法第45条)→美術の著作物、写真の著作物等のオリジナル作品を所有している人は、オリジナルを展示することができます。
  • 公開の美術の著作物等の利用(著作権法第46条)→公共の場にある建築物、学校・公園などにある彫刻・銅像などを撮影することができます。
  • 美術の著作物等の展示に伴う複製等(著作権法第47条)→美術・写真の著作物のオリジナル作品の展覧会を開催する場合には、その主催者は観覧者のためのパンフレットやホームページ等に、展示する著作物を掲載することができます。

まとめ

この記事では、「著作権侵害」と「他者の著作物を利用できる場面や条件」、それぞれの詳細や条件等についてお話ししてきました。

最後にアーティスト・クリエイターのみなさんに改めてお伝えしたいのは
「他者の作品や文化にリスペクトを持つことが、著作権侵害をしないための基本姿勢である」
ということです。

上述したように、他者の作品を自由に利用できるのは「ごくごく限定された場合や条件において」のみで、それ以外では著作者の許諾が必要です。

もしそういったアイディアを思いついた際には、
「著作権保護期間を確認し、期間内であれば著作者・著作権者に連絡を取る」
という基本の知識を持っておくと、自分や作品、また展示発表等の活動を守ることにもつながります。

自他の著作権(※「著作財産権」的にも「著作者人格権」的にも)を大切にしながら、なるべく無用なトラブルのない、だいじょうぶな創作・展示・発表・流通などを心がけていっていただければ、と願います。

クリエイター向けの「著作権」参考資料

参考書籍

大串 肇、北村 崇、木村 剛大、古賀 海人、齋木 弘樹、角田 綾佳、染谷 昌利

『著作権トラブル解決のバイブル! クリエイターのための権利の本』(ボーンデジタル、2018)

川上 大雅『駆け出しクリエイターのための著作権Q&A』(玄光社、2020)

参考サイト

著作権Q&A 公益社団法人著作権情報センター

みんなのための著作権教室 公益社団法人著作権情報センター 

著作権|文化庁HP 

「そもそも著作権ってなんですか?水野祐×深津貴之×加藤貞顕【第1回】」note編集部

「なにが著作権にあたるの? クリエイターが知っておきたい著作権の基本」noteイベント情報

記事制作協力

法律家Y

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