どのような形であっても、現実の場に作品を展示する際には、それを立体物として扱うことになります。
「立体」は非常に多くのものにつきまとう性質ですが、取り扱い方を間違えてしまうと、危険な事故や事件に繋がってしまいます。
この記事では主に、立体物を展示する時に注意するべきポイントを紹介していきます。
だいじょばないポイント
接触に注意しよう
作品への意図しない接触は、あらゆる事件・事故の引き金になり得ます。
鑑賞者が作品に触れる・中に入れる作品を除いては、設置した立体物への鑑賞者の接触を予防することが重要です。
主な対策 ・結界を置く ・監視員をつける ・監視カメラを設置する ・「お手を触れないでください」の表示を設置する ・ケースに入れる
転倒・落下に注意しよう
転倒・落下は、立体作品の展示において最も怖い現象です。
作品が損壊してしまうだけでなく、怪我や展示空間や設備などへの物損も起こりえます。
たとえ小さな作品であっても大きな事故に繋がりかねません。
盗難に注意しよう
展示は不特定多数の人が集まる機会です。作品自体、もしくは作品に関わる機材などが盗難されてしまうといった事件も少なくありません。
また配布する予定のなかった参考資料やポートフォリオなどでも、展示空間に放置すると、悪気なく持っていかれてしまうことがあります。
こんな時に考える
サイズの小さい・軽い作品を展示したい
窃盗に注意しよう
作品が小さければ小さいほど盗難に遭ったり紛失したりする危険性は高まるので、それ相応の対策を講じる必要がでてきます。
主な対策 ・作品をミュージアムジェルやワイヤーで固定する ・作品を台座に直接固定する ・作品と配布物とを差別化し、わかりやすく表示する
サイズの大きい・重い作品を展示したい
倒れてしまわないように注意しよう
作品が大きくなればなるほど、制作や搬入の段階からその扱いには十分に注意を払う必要が出てきます。
体積もしくは質量の大きな作品の場合には、すこし動くだけでも人や物をを傷つけてしまう可能性が発生してきます。
そのため、それがどのような理由で動いてしまう可能性があるかを想像し、それに応じた対策を講じる必要があります。
主な対策 ・接地面積を増やす ・重心を低くする
立体物は、3点で接地しているのが最も安定すると言われています。
少ない面積で設置している作品の場合は、接地面を増やすとより転倒しづらくすることができます。
また重心を低く(=下の方を重く)すれば、倒れづらい作品になります。
具体的な対策として、台座の重心を低くするには、中に水の入ったペットボトル等を数本入れて内部の下部に固定するなどの方法があります。
仮設壁なども、骨組みのうちの接地する箇所に上から重しなどを載せると、重心は低くなります。
床が傷つかないように気をつけよう
展示する作品が大きくなると、搬入や展示の際に展示空間を汚したり、壊したり、傷つけてしまう機会が増えるものです。
主な対策 ・床または作品の底面(地面に接する箇所)を養生する ・荷重を分散するために、作品の下に板などを挟む
硬い作品を展示したい/鋭角な形を持つ作品を展示したい
作品は動きませんが、展覧会場では多くの人が動くので、思わぬタイミングで人が傷ついてしまうことがあります。
特に作品の一部が極端に細長く尖っていたりする場合、近づいてきた鑑賞者が作品に接触し、怪我をしてしまうことが考えられます。
また、切断面がそのままの状態の金属や石なども、刃物に類する危険性を孕むため、注意が必要になってきます。
主な対策 ・鑑賞者が近づき過ぎないよう、未然に導線を検討しておく ・危険なものは鑑賞者の触れかねない位置には展示しない ・結界を置く ・監視員をつける
展示台を使って作品を展示したい
展示台のメリット/デメリット
多くの展示で目にする展示台には、それが多用されるだけのメリットがあります。
展示会場の床や壁に直接手を加えることができない場合でも、作品固定のための母体の役割を果たしてくれたり、作品と鑑賞者の距離を保つことで事故の発生を未然に防ぐことが可能になります。
しかし一方で展示台を使うということは、立体物を増やすという選択でもあり、つまりそれだけ危険も増えるということにも繋がります。鑑賞者が展示台を倒して作品を破損させてしまったり、倒れた展示台によって鑑賞者自身が怪我をすることも考えられます。
展示台を設置するときは、作品以上に展示台が触れられてしまうという可能性も念頭に入れて設置作業に臨む必要があります。
展示空間に仮設壁を立てたい
空間にある壁というものに対して、鑑賞者は自然と緊張感が薄れてしまうものです。
建築の一部として認識され、手をついて体重をかけられてしまうことも少なくありません。
同時に、壁は展示空間で最大の立体物です。仮設壁に体重をかけられてしまった場合、倒れて大きな事故につながる可能性が十分に考えられます。
設置する作品への注意も大切ですが、壁自体にも細心の注意を払う必要があります。
立体物の設置の仕方
①安全な展示位置を検討しよう
鑑賞者が作品の周りを通行することができるかを事前に確認しておく必要があります。
また、回り込んで欲しくないのであれば立ち入れないように狭くするなど、鑑賞者の動きを予測し、作品に接触せずに鑑賞できる動線を確保しましょう。
作品を設置予定の床に凹凸がないかなど、立体物を安定して置くことのできる場所かどうかの確認も重要です。
一見するとわかりづらいような小さな凹凸でも、作品が不安定な状態になってしまうこともあります。
もし床に凹凸がある場合、設置物の下に木片や折り畳んだ紙などを噛ませたり、設置物の底面積より広い床板(合板や鉄板など)を敷くことで解決可能な場合もあります。
②展示する予定の作品を確認しよう
作品の背が高かったり、床への接地面積が小さかったりする場合は、転倒の危険があります。
作品自体に転倒・落下につながる要素がないか、事前に確認しておくことが必要です。
主な対策 ・作品を床に直接固定する ・床板や台座の上に設置し、それらに作品を固定する ・固定の補助としてワイヤーを使用できないかを検討する ・作品自体の接地面積を広くしてみる ・作品自体の重心を低くしてみる
③設営の作業に注意しよう-高さのある場所での作業
落下に注意しよう
下に人がいないかを確認しておく必要があります。人がいる場合、基本的には作業をしないようにしましょう。
道具などは高所から落とすと簡単に壊れてしまうだけでなく、人に当たれば人命に関わる怪我に繋がります。
腰バッグやサコッシュなどに入れて身につけておくと、道具を落とす危険性や、手が塞がる危険性を回避できます。
なるべく複数人で作業しよう
なるべく二人一組で行うことを心がけましょう。
例えば脚立を使う場合は脚立を保持する係と、脚立に上る係にわかれることで、より安全に作業をすることができるようになります。
④設営の作業に注意しよう-重い物の運搬
一人で作業にあたらず、運搬の手順を決めて共有しよう
どうやって安全に持ち上げるのか、どうやって安全に床に置くのかなどをイメージしてから作業に臨まないと、思わぬ重さにパニックになることがあります。
持ち上げる前に運搬の手順を決めて、作業にあたる人全員に共有しておきましょう。
複数人で作業をする場合、声を出して作業することも重要です。
「(作品を)持ち上げます」「いっせ〜の」「(作品を)下ろします」「(作品が)通りまーす!」など。
服装に注意しよう
作品と床の間に指や足を挟み重大な事故になってしまう場合もあります。
重量物を運搬する際には、サンダルなど足がむき出しになる靴やかかとのない靴は避けましょう。
爪先に金属板が入っていて指を保護する安全靴も活用できます。
→服装のページ
道具を活用しよう
重量物を運ぶ場合には、「バンコ」と呼ばれる角材などを一度作品と床の間に挟むことで、安全に運搬することができます。
⑤設営の作業に注意しよう-大きい物の運搬
壁などにぶつけてしまうと、建物も作品も破損・汚損の危険を伴います。
重量物の運搬と同じく、移動する際には声を掛け合って、移動経路のクリアリングを行いましょう。
特に、距離がある場合や狭い場所では、運ぶ人を先導する人員もいるとよいでしょう。
気をつけるべき点をアナウンスしたり、邪魔になるものがあれば移動したりすることができます。
記事制作協力
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記事サムネイル – 笹野井もも 《人景-waterfall》
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